現在多くの種類の税金がありますが、この中で特に身近なものとしては、消費税、所得税、住民税、法人税、相続税、贈与税などが挙げられます。これらは決められた期間内に納税することが原則として義務付けられています。しかし、各世帯が抱えるやむを得ない事情の中であってもそれにこだわってしまえば、日々の生活設計に対して大きな負担となる恐れがあります。そのため、各税金が抱える「控除」を知ることが必要です。今回は、その中の一つである「配偶者控除」について紹介します。

目次

配偶者控除の基礎知識


配偶者控除とは、「納税者(以下、一部を除いて夫と表記)に配偶者(以下、一部を除いて妻と表記)がいることで一定額の控除を受けられる控除」のことですが、この制度の基礎知識は次の通りです。

配偶者の年収によって控除額が変わる

配偶者控除と配偶者特別控除の控除額は、現時点では次の通りになっています。

● 配偶者控除
70歳未満の妻:38万円
70歳以上の妻:48万円

● 配偶者特別控除(金額は合計所得金額)
38万円超40万円未満:38万円
40万円以上45万円未満:36万円
45万円以上50万円未満:31万円
50万円以上55万円未満:26万円
55万円以上60万円未満:21万円
60万円以上65万円未満:16万円
65万円以上70万円未満:11万円
70万円以上75万円未満:6万円
75万円以上76万円未満:3万円

特に、配偶者特別控除は「配偶者の合計所得金額」によって控除額が変わっていることが分かります。ただし、2018年からはこれらが改正されます。その仕組みについては後述を参照してください。なお、合計所得金額の定義については後述を参照してください。

節税額は5万円から11万円くらい

配偶者控除による節税効果としては、一般的には5万円から11万円くらいといわれています。例えば、500万円の年収の人の配偶者控除適用有り無しの差は、7万円近くに上るとされています。

年末調整で受けることができる

税金の勉強をする上で欠かせない要素の一つに年末調整があります。

通常、1月1日~12月31日までの間に支払いが確定した給与に対して、会社が所得税を徴収します。いわゆる「天引き」という形です。

しかし、これは概算となっていることが多いため、必ずしも本来の金額となっているとは限りません。そのため、年末の時期に再計算することで正しい所得税の金額を求めます。これを年末調整といって、会社に勤務する人はこの制度によって一定の基準を満たしている以外は翌年に行われる確定申告が不要となります。

そして、配偶者控除はこの制度の適用を受けることができます。

扶養控除等の申告書に記載が必要

配偶者控除の申請のためには、年末調整の時期に会社などから配布されることが多い「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」という書類を準備して、夫と妻の次の情報を記載する必要があります。

● 夫
氏名
個人番号(マイナンバー)
生年月日
住所

● 妻
氏名
生年月日
住所
所得の金額(今年度の金額)

配偶者に関しては、「控除対象配偶者」という次の項目欄に記載することになります。なお、年末調整の時期はまだ所得が確定しきれていないこともあるため、所得の金額については確定した金額でも予想される金額の記載でも問題ありません。

確定申告でも申請可能

配偶者控除は、後述の条件を満たすことで確定申告による申請が可能となります。年末調整を仮に行わなかった場合でも利用可能です。

配偶者控除を受ける条件

配偶者控除にはさまざまな特典がありますが、この制度を利用するためには次のような要件が必要になります。

合計所得金額が38万円以下

年間の合計所得金額は38万円以下である必要があります。この合計所得金額とは、次の所得の合計額のことです。

● 事業所得:次の事業によって生ずる所得
農業
漁業
製造業
卸売業
小売業
サービス業
その他の事業
計算式→総収入金額 - 必要経費 = 事業所得の金額

● 不動産所得:土地や建物の貸付け等に起因して得ることができる所得
計算式→総収入金額 - 必要経費 = 不動産所得の金額

● 利子所得:次の収益によって発生する分配に対する所得
預貯金
公社債
合同運用信託
公社債投資信託
公募公社債等運用投資信託
収入金額がそのまま反映される(源泉徴収前の金額)

● 配当所得:次の収益によって発生する分配に対する所得
株主や出資者が法人から受ける剰余金
利益の配当
剰余金の分配
投資法人からの金銭の分配又は投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託以外のもの)
特定受益証券発行信託
計算式→収入金額(源泉徴収税額差引前の金額) - 株式等を取得するための借入金の利子 = 配当所得の金額

● 給与所得:勤務先から支給される給与や賞与等の所
計算式→収入金額(源泉徴収前の金額) - 給与所得控除額 = 給与所得の金額

● 雑所得:次の収益によって生じるもののいずれの所得区分にも該当しない所得
公的年金等
非営業用貸金の利子
著述家や作家以外の人が受ける原稿料や印税
講演料や放送謝金
公的年金等の計算式→収入金額 - 公的年金等控除額 = 公的年金等の雑所得
その他の雑所得の計算式→総収入金額 - 必要経費 = その他の雑所得

● 総合譲渡所得:土地や建物以外の資産を譲渡したことにより生じたものを他の所得と合算して求める所得で、取得から売却までの所有期間によって次の2つに分かれる
所得期間5年以内:短期譲渡所得となり全額が課税対象となる
所有期間5年を超える:長期譲渡所得となり金額の2分の1が課税対象になる
計算式→譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用) - 50万円 = 譲渡所得の金額

● 一時所得:営利目的の継続的な活動により発生した所得以外の所得のうち、労務や役務の対価や資産の譲渡による対価等の性質を有しない一時の所得
計算式→総収入金額 - 収入を得るために支出した金額 - 特別控除額(最高50万円) = 一時所得の金額

給与所得が年収103万以下

配偶者控除を受けるためには、前述の通り合計所得金額が38万円以下ある必要があります。しかし、それ以外にも「給与所得のみの場合は年収103万円以下」という条件もあります。

これがいわゆる「103万円の壁」とも称されることで、内訳は給与所得控除の最少額65万円と基礎控除38万円を合算した金額です。

一般的に、配偶者とは「家事や育児などに追われながらパートをして収入を得ている主婦となった女性」を指すことが多く、事業を行って収入を得ることはそう多くはないでしょう。そのため、少しでも税金の発生しないようにするために年収を103万円以下に抑える実態が少なくはありません。それは、パートとして雇用する会社側などもその点に配慮していることが多いです。

ただし、本来配偶者とは「婚姻関係になっている相手」を意味する言葉のため、男性であっても対象になり得ること、あとは何かしらの事業を行ってこの基準を遥かに上回る高い年収を得ている主婦も少数ながら存在している点については留意する必要があるでしょう。

年金基準で見れば158万以下

給与所得のみであれば103万円以下であれば配偶者控除は適用されますが、他にも公的年金等の受給のみの場合でも、その基準よりも上がりつつも適用されます。

まず、収入金額ごとの公的年金控除額一覧表は次の通りです。

● 65歳未満
公的年金の収入金額が70万円未満:所得金額はかからない
公的年金の収入金額が70万円超~130万円未満:70万円
公的年金の収入金額が130万円超~410万円未満:収入金額 × 75% + 37.5万円
公的年金の収入金額が410万円超~770万円未満:収入金額 × 85% + 78.5万円
公的年金の収入金額が770万円超:収入金額 × 95% + 155.5万円

● 65歳以上
公的年金の収入金額が120万円未満:所得金額はかからない
公的年金の収入金額が120万円超~330万円未満:120万円
公的年金の収入金額が330万円超~410万円未満:収入金額 × 75% + 37.5万円
公的年金の収入金額が410万円超~770万円未満:収入金額 × 85% + 78.5万円
公的年金の収入金額が770万円超:収入金額 × 95% + 155.5万円

この表から、65歳未満と65歳以上の場合、次の通りの結果となります。

● 65歳未満:70万円

● 65歳以上:120万円

このうち65歳以上で158万円の公的年金等を受給している妻を持つ夫は次の計算式によって、配偶者控除の適用を受ける枠内に入ることができます。

158万円 -120万円 = 38万円

公的年金等控除額については、国税庁などのホームページで速算表内に掲載されているので参照してください。

婚姻の届け出がある配偶者


婚姻届の提出が受理されている配偶者である必要があります。つまり、法的にしっかりと「夫婦」となっていることが前提です。そのため、内縁関係の人は対象外です。

なお、婚姻期間の関する条件の定めは特にありません。これは、居住用不動産又は居住用不動産を取得するためにかかった金銭の贈与に範囲を限定して、かつ20年以上の婚姻期間を過ぎた後の贈与であるといった条件を定めている「贈与税の配偶者控除」とは異なります。

納税者本人と同一生計である

夫の持っている生計を一にしている必要があります。

この生計を一にするとは、次の状態を表します。

● 夫と一緒に居住して生活を送っている
● 居住を共にしていないが夫の持っている生計で日々の生活している

よって、例えば次の場合でも該当します。

● 遠方の大学に通うために家を出ている子に対して学費や生活費を仕送りしている
● 施設に入所している父母に関する療養費を負担している

このことから、現在の家族内の生活状況をよく確認しておくことが重要です。

青色申告の専従者給与を受け取っていない

個人事業主の場合、生計を一にしている妻や親族などがその事業に対して従業員として業務を行っているために給与が支払われることは珍しくありません。その立場の従業員を「専従者」といいますが、その給与については原則として必要経費としては認められません。

しかし、個人事業主が青色申告をしていた場合は、これが「青色申告事業専従者給与」と呼ばれて、特例という形で経費として認められることがあります。また、これを受け取った人は「青色事業専従者」と呼ばれることになります。

ただし、受け取ってしまうと配偶者控除の適用を受けることができなくなりますので、その点には注意してください。これは白色申告をして「白色事業専従者」の立場となっていた場合でも同様です。

なお、青色申告事業専従者給与を認めてもらうためには次の条件を満たす必要があります。

● 夫と生計を一にしていること

● 年末時点で年齢が15歳以上に達していること

●年間6カ月以上(一定の場合には、事業に従事できる期間の2分の1以上)、夫の営む事業に従事していること

● 「青色事業専従者給与に関する届出書」を参入しようとしている年の3月15日または事業を開始した日や専従者がいることになった人から2か月以内に納税地の所轄税務署長に提出している

また、届出書に記載されている金額の範囲内で支払われたものであること、それが労務の対価として相当であると認められる金額であることといった条件も加わります。

配偶者特別控除の配偶者控除との違い

これまで登場してきた配偶者控除と特別配偶者控除ですが、ここで改めて両者の違いについて紹介します。

38万超76万円未満で受けられる

配偶者控除は合計所得金額が38万円以下でなければ適用を受けることはできませんが、配偶者特別控除は次の条件を全て満たすことで適用を受けることができます。

● 夫の合計所得金額が1,000万円以下である

● 妻の合計所得金額が38万円超76万円未満である

ただし、2018年からは次の通り変更されますので注意してください。

● 夫の合計所得金額が1,000万円以下である

● 妻の合計所得金額が38万円超123万円未満である

納税者の所得により控除額に差がつく

前述の通り、配偶者控除と配偶者特別控除は妻の年収によって定まっています。

しかし、2018年からはこれらが改正されて、この上限が今までの103万円から150万円までに引き上げされます。しかし、それに加えて「配偶者に加えて夫の合計所得金額も加わって控除額の差がつく」という形になります。

つまり、「夫婦の年収の組み合わせによって控除額が決まる」ということですが、その具体的な金額を次の通り紹介します。

まず、夫と妻、それぞれの年収(合計所得金額)を次の通り表します。

● 妻の年収(合計所得金額)
38万円以下(70歳以上):A
38万円以下(70歳以上):B
38万円超85万円以下:C
85万円超90万円以下:D
90万円超95万円以下:E
95万円超100万円以下:F
100万円超105万円以下:G
105万円超110万円以下:H
110万円超115万円以下:I
115万円超120万円以下:J
120万円超123万円以下:K
123万円超:L

● 夫の年収(合計所得金額)
900万円以下:M
900万円超950万円以下:N
950万円超1,000万円以下:O
1,000万円超:P

これらの表記形式を前提にして配偶者控除と配偶者特別控除は次のように決定されます。

● 配偶者控除(70歳未満の妻)
AとM:38万円
AとN:26万円
AとO:13万円
AとP:なし

● 配偶者控除(70歳以上の妻)
BとM:48万円
BとN:32万円
BとO:16万円
BとP:なし

● 配偶者特別控除
CとM~O:38万円、26万円、13万円
DとM~O:36万円、24万円、12万円
EとM~O:31万円、21万円、11万円
FとM~O:26万円、18万円、9万円
GとM~O:21万円、14万円、9万円
HとM~O:16万円、11万円、6万円
IとM~O:11万円、8万円、4万円
JとM~O:6万円、4万円、2万円
KとM~O:3万円、2万円、1万円
LとM~PまたはM~PとL:なし

これらの組み合わせから、妻の年収が123万円超または夫の年収が1,220万超(合計所得金額1,000万円超)の場合は、配偶者控除と配偶者特別控除の適用を受けることができないことが分かります。

改正後は128万円までに拡大される

現行の制度では、妻の所得が給与のみの場合は103万円以下であれば夫は38万円の配偶者控除を受けることができます。さらに、配偶者特別控除においては妻の所得が基準以下なら、その枠内で定められた区分に応じた控除額を受けることができます。

なお、この金額も2018年からの改正で128万円まで拡大されることになっています。つまり給与所得控除の65万円を差し引いて63万円までなら枠内に収まるということです。

150万を超えても夫の税金は増えない

2018年からの改正で妻の所得が給与のみなら103万円までとなっていたのが、150万円まで拡大されますが、これで「150万円を超えたら夫は控除を受けられず税金が増えるのではないか?」と懸念する声があります。

ただし、実際は年収が上がるにつれて段階的に控除額が下げられるというものです。だからいきなり控除額0円ということではないので注意してください。

なお、妻をパートとして採用している会社には、配偶者控除の適用を受けられるように勤務時間の調整などを行うことが多い実態がありますが、これは労働不足を招く恐れがありました。しかし、今回の拡大によってそれが少しは改善されると期待もされています。

ただし、妻の年収が130万円以上となると今度は夫の扶養から外れて社会保険に加入しなければなりません。その場合の保険料は被保険者と会社が折半することになるため、会社の負担は大きくなりますので、しばらくこれらのコスト面に対して会社の悩みは増える可能性があります。

2018年の税制改正に伴う変更点

ニュースでも話題となっていますが、2018年から配偶者控除と配偶者特別控除は次の通り変更されます。

合計所得金額が1220万円を超えると控除額がゼロになる

夫の合計所得金額が1,000万円超(所得が年収のみは1,220万超)の場合は、妻の所得が給与のみでかつ上限内に収まっていても配偶者控除と配偶者特別控除の適用を受けることはできません。高い年収になっているため、控除が不要であると判断されていることが伺えられます。

合計所得金額900万円以上は控除が減額される

また夫の合計所得金額が900万円以上については、配偶者控除と配偶者特別控除はゼロにはならないものの、妻の所得に連動して控除額が減額されます。

パート収入に対する税金は従来通り


妻の所得が給与のみとはいいますが、そのほとんどはパート収入となります。これに対する所得税と住民税の課税や社会保険に関しても、今回の改正に関する議論の中で議題に挙がって日々議論はありましたが、結局は従来通りのままの結論となりました。

妻の収入が100万以上で住民税が課税

配偶者の年収が100万以上となった場合は、住民税が課税されることがあります。なお、非課税枠は35万円(100万円 - 給与所得控除(65万円))となっています。

高齢者夫婦は180万円まで控除が利用できる

ともに公的年金等の受給をしている高齢者夫婦の場合、今までは妻の合計所得金額(今回の場合は年金所得)が38万円以上になることで、夫の配偶者控除の適用を受けることができませんでした。これが、60万円近くまでは可能となります。

また、他にも65歳未満は年金所得が108万を超えれば夫が配偶者控除の適用を受けられな
で利用できるようになります。

この結果は、大きなメリットと捉えることができます。

配偶者控除を正しく理解して賢く節税しよう

配偶者控除の制度とその周辺に関することを紹介しました。本制度は、原則として婚姻している配偶者のみに認められている制度です。2018年からは改定がされるものの、上手に活用することで少しでも納税の負担が軽減できることには変わりありません。そのため、配偶者の立場となっている人は積極的に活用していきましょう。