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介護の度合いを決める要介護認定


主に高齢者に対して必要となる生活関連事項と言えば「介護」になりますが、これを国のサービスとして施行されているのが介護保険制度です。この制度の中で要介護認定という仕組みがありますが、その具体的な中身については次の通りです。

介護サービスの利用に必要

まずは、要介護認定を受けることから介護保険制度のサービスは始まります。介護保険は、後述の通り多くのサービスが備わっていますが、そのほとんどはこれが前提で成立しています。

全国一律の判定基準

介護認定を受けるための主な流れは次の通りです。

1. 市町村の窓口に対して次の書類を持参した上で介護保険の被保険者(家族なども代理で申請可能)が要介護認定のための申請をする
① 介護保険被保険者証(65歳以上の第一号被保険者の場合のみ)
② 医療保険被保険者証など(40歳以上65歳未満の第二号被保険者の場合のみ)
③ 介護保険(要介護、要支援)認定申請書
④ 個人番号(マイナンバー)に関する書類(通知カード、個人番号カードなど)
⑤ 身分証明書
⑥ 主治医意見書(後述に詳細は記載)

2. 市町村から被保険者に対して次の調査員を派遣して被保険者に対して認定調査(ヒアリング)を行う
① 市の職員
② 委託を受けたケアマネジャー

3. 市町村から医師(主治医)に対し、主治医意見書の作成を依頼する

4. 調査員による認定調査内容と主治医意見書をコンピューターに入力することで、全国一律の基準を基にした介護にかかる時間(要介護認定基準時間)を評価する(一次判定)

5. 一次審査結果の内容を基に介護認定審査会が行われ、これまでの情報を総合的に勘案し、要介護度および認定有効期間の最終決定がなされる(二次判定)

6. 介護認定審査会の判定結果を踏まえて、市町村より被保険者に対して要介護認定の結果通知を行うとともに、介護保険被保険者証に要介護認定の結果を記載する

これらの流れが、申請のあった日から30日以内で行われます。

しかし、次の点が問題点として指摘されています。

● 申請集中の時期に被った場合は処理に時間がかかりやすくなることがある

● 主治医の業務の多忙さによって、主治医意見書がなかなか揃わないことがある

● 介護認定審査会を開催できる機会には限度があるため、タイミングを見誤ってなかなか開催されず審査の遅延が起きることがある

このため、「30日以上過ぎる」という実態が珍しくはありません。よって、あらかじめ早めに準備をすることをおすすめします。

介護認定のチェック項目


介護認定を行う時にチェックされる項目を紹介します。なお、それぞれの質問に対して、いくつかの回答が用意されているので選択して答える形式となっていますが、これらは全国一律の質問事項となっています。そのため、事前に被保険者で回答内容を準備しておくことも可能です。

生活に必要な動きの身体機能と起居動作

次の項目をチェックして、日常生活において必要になってくる動作のレベルを確認します。

● 麻痺

● 拘縮

● 寝返り

● 起き上がり

● 座位保持

● 両足での立位

● 歩行

● 立ち上がり

●片足での立位

● 洗身

● 爪切り

● 視力

● 聴力

日常生活の行動

次の項目をチェックして、普段の日常生活の行動パターンのレベルを確認します。

● 移乗

● 移動

● えん下

● 食事摂取

● 排尿

● 排便

● 口腔清潔

● 洗顔

● 整髪

● 上衣の着脱

● ズボンの着脱

● 外出頻度

社会生活に必要な精神障害と行動障害

次の項目をチェックして、被保険者の精神および行動における障害のレベルを確認します。

● 被害的

● 作話

● 感情が不安定

● 昼夜逆転

● 同じ話をする

● 大声をだす

● 介護に抵抗

● 落ち着きなし

● 一人で出たがる

● 収集癖

● 物や衣類を壊す

● ひどい物忘れ

● 独り言・独り笑い

● 自分勝手に行動する

● 話がまとまらない

社会生活への適応

次の項目をチェックして、被保険者の社会生活に溶け込む上で必要になってくる判断のレベルを確認します。

● 薬の内服

● 金銭の管理

● 日常の意思決定

● 集団への不適応

● 買い物

● 簡単な調理

意思の伝達や記憶の認知機能

次の項目をチェックして、被保険者との意思の疎通や記憶力のレベルを確認します。

● 意思の伝達

● 毎日の日課を理解

● 生年月日を言う

● 短期記憶

● 自分の名前を言う

● 今の季節を理解

● 場所の理解

● 徘徊

● 外出して戻れない

要介護認定の区分

市町村から要介護認定の通知が届いたら、どの区分による認定がされたのか確認しましょう。その区分については次の通りとなっています。

日常生活に問題ないとされる自立

仮に第一号被保険者である65歳以上に該当しても、要介護認定をもらわなくては介護保険の利用できません。

しかし、要介護認定の申請を行った結果、「日常生活を送る上で自立していて問題ない」と判断されて認定がおりない可能性もあります。その場合は、当然介護保険のサービスを利用することはできません。もちろん、ホームヘルパーなどの介護サービスの利用はできますが、全額自己負担となるためよほど必要でなければ利用することは難しいでしょう。

ただし、認定調査の最中に「被保険者が無理をして元気なふりをしたために調査員が誤って問題なしと判断した」という事例が少なからずあるため、必ずしも上記のことが正しいとは断言できない状況もあります。

そのため、次のような対応を考慮するといいでしょう。

● 介護認定の調査中は被保険者の家族は必ず同席して調査員とよくやりとりすること

● 審査内容に不服がある場合は介護保険審査会に対して審査請求を行うこと

ただし、審査請求に関しては次の点に注意しましょう。

● 必ずしも認められるわけではないこと

● 審査機関は最低でも3カ月以上など相応の時間がかかるため、実際に請求がされたケースは少ないこと

よって、ひとまず認定結果を受け入れて、更新のタイミングで再度申請をすることも一つの手です。なぜなら、要介護認定は新規申請、区分申請、一部を除いた更新申請、いずれの区分も原則として6か月ごとの更新となっているからです。

ただし、本当に自立していて問題ないと判断される場合もあります。その場合は、引き続き健康的でのびのびとした生活を目指していくことに専念しましょう。

一部要介助が必要な要支援1

基本的な日常生活を送る能力はあるものの、本人の身の回りの世話に対して一部の介助が必要と認定される人のことです。現状維持のためには、多少ながらも介助する人が必要であり、「要介護の進行予防」という狙いがあります。

介護予防が必要な要支援2

要支援1よりも歩行や立ち上がりに多少不安定さがあり、引き続き要介護進行予防を念頭に一定の介助が必要とされる人のことです。少し物忘れなどがありますが、現段階ではあまり生活を送る上で支障はないレベルです。

部分的に介護が必要な要介護1

立ち上がりや歩行に不安定さがあって、排泄および入浴などで転倒防止に配慮しながら介護を行う必要があることに加えて、物忘れ、思考や感情的な障害が認められるなど適切な理解力の欠如などが見られるレベルです。

身の回りの介護が必要な要介護2

自力での立ち上がりや歩行が困難である、排泄、入浴、着替えにおいて介護が必要である、記憶の曖昧さも露呈している、といった状況が見られて生活を送る上で支障をきたし始めている人のことです。また、他人とのコミュニケーションも困難と認められるレベルです。

日常生活全てに介護が必要な要介護3

自力での立ち上がりや歩行などに加え、排泄、入浴、着替えなどでも介護が必要と判断される人です。また、自分の氏名や生年月日なども分からなくなっている状態にもなっています。

意思の疎通が困難とされる要介護4

日常生活全般において介護が必要となっている人です。意思の疎通もかなり困難な上、日常生活を送る上で支障をきたす行動も頻繁に見られます。

最も重度とされる要介護5

寝たきりの状態で、生活全般で介護が必要と認められている人です。理解力も相応に低下して、意思の疎通は完全に困難であると判断されています。

要介護認定によって受けられるサービス

要介護認定を受けたら、次に紹介するサービスを受けることができるようになります。

自宅で受けられるサービス

被保険者の自宅で受けられるサービスですが、主に次のような4点が挙げられます。

● 訪問介護
① ホームヘルパーや介護福祉士などの資格を持った職員が、自宅を訪問して介護を行うサービスで主に次のようなものがあります。
・ 身体介助:食事、入浴、排泄など
・ 生活援助:掃除、洗濯、調理など
・ 移動サポート:通院や買い物などの外出移動など
② 要介護1~5の認定を受けた被保険者が対象となる

● 訪問看護
① 訪問看護ステーションや病院などの看護師、准看護師、保健師などの資格を持った職員が、自宅を訪問して看護を行うサービスで主に次のようなものがあります。
・ 療養環境の調整:介護保険に関する手配、ベッド周囲の安全確保、採光、換気、空調、血圧、体温、呼吸、脈拍のチェックなど
・ 病気の治療のための看護:薬の服薬方法の指導、服薬確認、床ずれ処置、人工肛門やパウチ交換、たんの吸引、ガーゼ交換、導尿、カテーテル管理、点滴、在宅酸素療法、採血など
・ 療養生活の世話:食事のお手伝い、洗面、洗髪、シャワーや入浴の介助、オムツ交換、体位変換など
・ 介護相談:家族との相談、介護保険や医療保険の説明、医療機関や自治体などの相談窓口の紹介など
② 要支援1~2および要介護1~5の認定を受けた被保険者が対象となる

● 訪問入浴介護
① 医療関係の資格と介護関係の資格を持った職員が、3人体制で自宅を訪問して入浴を行うサービスであります。
・ 入浴時間や、入浴前の健康チェック、浴槽の設置、入浴、入浴後の健康チェックなど。全て含めておおむね1時間程度となる
② 身体の清潔と衛生上の安全が狙いである
③ 1坪程度のスペースが必要となる
④ 要介護1~5の認定を受けた被保険者が対象となる
⑤ 要支援1~2の認定を受けた被保険者は介護予防訪問入浴介護の対象となる

● 訪問リハビリテーション
① 主治医が「訪問リハビリテーションが必要である」と認めた被保険者に対して、理学療法士などの資格を持った職員が自宅を訪問してリハビリテーションを行うサービスで主に次のようなものがあります。
・ 日常行動動作:食事やトイレなどの訓練、歩行訓練、家事動作訓練など
・ 身体機能動作:筋トレ、関節硬化防止など
・ その他:編み物、折り紙などの手先の動作訓練、被保険者に関する相談など
② 要介護1~5の認定を受けた被保険者が対象となる
③ 要支援1~2の認定を受けた被保険者は介護予防リハビリテーションの対象となる

施設を利用して受けるサービス


施設に通所して受けられるサービスですが、主に次のものが挙げられます。

● デイサービス
・ 被保険者が施設に日帰りで通って、日常生活上の介護や機能訓練を受けるサービスである
・ 家族にとっては、日中の介護の軽減、被保険者にとっては引きこもりや孤立防止といったメリットが挙げられる
・ 要介護1~5の認定を受けた被保険者が対象となる
・ 要支援1~2の認定を受けた被保険者は介護予防通所介護または地域支援事業(介護予防、日常生活支援総合事業)の対象となる

● ショートステイ
・ 被保険者が数日間施設に入所するサービスである
・ 家族にとっては、数日間出張や旅行などで自宅を空けないといけない時に利用することで、被保険者への介護の負担をなくせるといったメリットが挙げられる
・ 要介護1~5の認定を受けた被保険者が対象となる
・ 「短期入所生活介護」とも呼ばれる
・ 連続利用日数は30日までとなっている
・ 連続利用日数が31日以降は全額自己負担となる
・ 特別養護老人ホームなどに併設されている「併設型」、ショートステイを専門とした施設にある「施設型」の2つのタイプに分けられる

介護の環境を整えるサービス

介護の環境の向上を図るために福祉用具を利用したサービスですが、主に次のものが挙げられます。

● 貸与対象となっている福祉用具
・ 要介護4~5のみ利用可能
① 自動排泄処理装置
・ 要介護2~5のみ利用可能
① 車いすおよび付属品
② 特殊寝台および付属品
③ 床ずれ予防用具
④ 体位交換器
⑤ 移動用リフト
⑥ 認知症老人徘徊感知機器
・ すべての要介護認定で利用可能
① 手すり
② スロープ
③ 歩行器
④ 歩行補助杖

● 購入対象となっている福祉用具
・ 腰掛便座
・ 自動排泄処理装置の交換可能部品
・ 入浴補助用具
・ 簡易浴槽
・ 移動用リフトのつり具部分

なお、利用の際には、介護保険制度を利用することでかかった費用の1割の自己負担が必要です。また、ケアマネジャーを通じてレンタル可能かどうかの有無や、かかってくる費用などを確認することになりますので、前もって確認しておきましょう。

施設に入居し受けるサービス

前述の通所サービスと異なり、一定期間あるいは終身施設に入居ができるサービスですが、主に次のものが挙げられます。

● 特定施設入居者生活介護
・ 主に高齢者ができるだけ自立した生活を送れるように、特定施設(介護付き有料老人ホームや軽費老人ホームなど)に入所者に対して、食事や入浴などの日常生活における支援や機能訓練などを受けるサービスである
・ 自宅で生活をする人と特定施設に入所している人、どちらも生活を営む上で必要な介護サービスを介護保険制度の利用により受けられるようにしてある
・ 料金設定は比較的安価である
・ 特定施設と一部の外部サービス事業者だけが提供可能なサービスである
・ 「内部提供型」と「外部サービス利用型」の2つのタイプがある
・ 要支援1~2および要介護1~5の認定を受けた被保険者が対象となる
・ 入居費用や日常生活費は別途負担となる

● 特別養護老人ホーム
・ 病気や障害などで自宅での生活が困難と判断された高齢者が入所して介護を受けるサービスである
・ 入居費用は比較的安価である上、長期を前提とした入所期間が設定されているなど高齢者に対する配慮は高い
・ サービスに対する月額料金のうち、半額相当分は医療費控除の対象となる
・ 24時間365日の体制で介護を受けることができる
・ 要介護3以上の認定を受けた被保険者が対象となる
・ デメリットとして次の点が挙げられる
① 看護師の夜間常駐が義務付けされてないため緊急時の対応に不安があること
② 要介護3という基準によって入居できる人が限られていること
③ 医療に対する依存度が高いと入所生活が困難になること

介護が必要になったらすぐに申請を

介護保険制度を利用するために必要になってくる要介護認定について、その仕組みと利用できるサービスについて紹介しました。いずれもが老後の生活を支える上では欠かせないものばかりですが、要介護認定を受けなければ利用できません。介護は65歳になる前に起きる可能性もある以上、タイミングを見計らって早めに要介護認定の申請を行っておくことをおすすめします。