最愛の家族が亡くなった時、深い悲しみが押し寄せる間もなく生計の基盤を揺るがす恐怖が押し寄せてくるものです。これからどう生きていけばいいか、生活ができるのだろうか、という不安を少しでも解消するために、残された家族の生計を助ける公的な遺族年金制度があります。今回はその遺族年金の仕組みや種類、要件や支給について詳しく解説していきましょう。

目次

遺族年金の役割


家族の生計を担う大黒柱が亡くなってしまった時、どうやって生計を立てていくかと不安に思う方は少なくないでしょう。遺族年金はそんな残された家族の生計を助けるための公的年金制度です。

年金加入者が亡くなった時に支給される公的年金

生前まで納付されていた年金の保険料は一定の期間に到達することにより、通常であれば老齢の年金として支払われるのですが、一定の期間に到達せず、事故や病気で突然亡くなってしまった場合、その保険料は残された家族、つまり遺族に対して支給されます。今後の生計の不安を少しでも解消されるために設けられている公的年金制度となります。

生活基盤を維持されていた遺族に対しての支給

最近の生活基盤は女性の進出により、共働きが増え以前よりも安定した収入が維持されている家庭が増加傾向にあります。2人で働くことにより、収入の安定はもちろんのこと、働き方によっては双方が公的な保険料を納付していて、突然の事故や病気で亡くなってしまったとしても、条件を満たしていれば、残された遺族に対して、遺族年金が支給される仕組みになっています。そのため、襲い掛かる将来の不安や負担を少しでも解消できることは間違いないでしょう。

遺族年金の主な種類

遺族年金とは正式に「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、年金に加入していた被保険者が亡くなった場合にその保険者によって生計が維持されていた残された家族に交付される年金です。亡くなった被保険者の年金納付状況によって支給される年金が片方、または両方支給される場合があります。しかし全ての遺族が支給されるわけではなく、家族の構成や優先順位、年齢等により、支給されない、または支給される額が異なってきます。

1号被保険者の遺族基礎年金

まずは、第1号保険者による遺族基礎年金について説明しましょう。まず、第1号保険者とは、国内居住の20歳から60歳未満の自営をされている方、農業や漁業、学生や無職の方、またその配偶者で、厚生年金、共済年金に加入していない方を指します。その第1号保険者が突然死亡した場合、その残された遺族に支給される年金が遺族基礎年金になります。支給を受けられる方の要件は18歳未満の子のある妻、およびその子供になります。

そもそも遺族基礎年金は昔、母子年金とも呼ばれており、専業主婦が大黒柱を失った時、路頭に迷わないため制度として作られたものです。ですので、夫は一定の条件を満たさない限り不支給になり妻の場合でも子供がいない場合、子供がいても、18歳以上だったり、18歳未満でも結婚している場合は不支給になるので、覚えておきましょう。また妻が一定の安定した収入を得ている場合もこの限りではないので注意が必要です。ただし、障害者の場合はこの限りではありません。

2号被保険者の遺族厚生年金

次に第2号保険者による遺族厚生年金について説明しましょう。第2号保険者とは70歳未満の会社員や私立の学校の先生、公務員を指します。その第2号保険者が突然死亡した場合、その残された遺族に支給される年金が遺族厚生年金になります。支給を受けられる方の要件は次の通りです。生計を維持されていた妻、18歳未満の子供、孫、一定の条件を満たせば、55歳以上の夫や父母、祖父母も支給が可能です。遺族基礎年金に比べ遺族厚生年金は支給される幅が広いのが特徴です。

遺族年金を受給する為の保険料の納付要件

さて、これまでは遺族年金の仕組みや種類について述べてきましたが、遺族年金は誰でも平等に受給できるわけではありません。突然亡くなってしまった被保険者の保険料の納付期間や納付金額によって、受給できない場合がありますので覚えておきましょう。また遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給要件も多少異なりますので注意が必要です。遺族基礎年金は死亡した被保険者が基本的に国民年金に加入している、またはしていて、老齢基礎年金受給を満たしていることが条件になってきます。遺族厚生年金は厚生年金に加入している、またはしていて、老齢厚生年金受給を満たしていることが条件になってきます。

国民年金加入期間の2/3以上の納付又は免除

前述の通り、遺族基礎年金は国民年金に加入していることが条件になりますが、保険料の納付についての条件もあるので注意が必要です。具体的に言うと、死亡した月の2ヶ月前まで国民年金の加入期間の2/3以上、保険料が納付されていること、または免除になっていることが条件です。例えばわかりやすく説明すると、3年後に被保険者が死亡した場合、最初の2年は満額納付し、最期の1年だけ未納だったとしても、遺族は受給することができます。または免除もその限りであります。

保険料の免除についておさえておきたいこと

ここまで、保険料をきちんと支払うことにより遺族基礎年金または遺族厚生年金が受給できることはわかりましたが、では、免除とはどういうことなのかを少し説明しましょう。遺族厚生年金の厚生年金保険料の納付については概ね給料からの徴収になるので、滞納といった心配はあまり考えなくてもいいでしょう。しかし遺族基礎年金の国民年金の場合は失業や収入の減少により、保険料を納めることが難しくなった時はこの保険料免除・納付猶予制度をしっておくと便利でしょう。保険料免除額は所得に応じて全額、3/4 半額、1/4の四種類に分かれます。

どちらかを満たす必要がある

しかし、いずれにせよ遺族基礎年金も遺族厚生年金も納付状況のどちらかを満たしていなければ、保障を受けることはできかねます。配偶者の納付がどのようになっているかきちんと把握していることが重要です。

遺族基礎年金支給のポイント

これまで遺族基礎年金の受給について、どんな人が対象になるか、または死亡した被保険者の納付要件を説明してきましたが、ここでもう一度ポイントを押さえていきましょう。

子供のいる妻又は子供に支給される


受給できる対象者は18歳未満の子がある配偶者と、18歳未満の子供となります。ポイントは死亡した者によって生計を維持されていた者に限ります。また維持されていたとしても遺族の年収が850万円未満、所得金額で約655万円以下となり、遺族年金を受給しなくても、充分に生計が維持できると判断されるため、対象から除外されます。ですので、自身の年収や家族全体の年収を把握しておくことが重要なポイントになります。

支給期間は子供の年齢が18歳に達するまで

では、実際に受給要件を満たした上で、実際にいつまで支給されるのでしょうか。対象者が死亡されるまで支給されるわけではなく、支給期間は決まっているので覚えておきましょう。前述でも示している通り、子供が18歳未満の配偶者、または18歳未満の子供に支給されます。ですので、子供が18歳になるまでと定められており、詳細に言えば、18歳の年度末である3月31日までとなります。

支給額は779,300円+子の加算

では、実際に支給される金額になりますが、年で換算すると基礎で779,300円プラス子供の人数となります。例えば子供が1人の場合ですと、779,300円+224,300円となり合計で1,003,600円になります。さらに子供が2人ですと224,300円更に加算になりますので、1,227,900円になります。3人目の場合は更に224,300円加算のため1,302,700円になります。しかし、4人目以降は子供1人につき74,800円の加算ですので4人の場合は1,377,500円になりますのでおさえておきましょう。

遺族基礎年金の受給資格

ここで一旦整理しますが、遺族基礎年金の受給資格は、死亡した被保険者が国民年金の加入時、または国民年金を納入済みで老齢基礎年金の受給資格を満たした者の遺族で、且つ、18歳未満の子供を持つ配偶者や18歳未満の子供のみが受給の資格であることを忘れないでおきましょう。また支給期間に関しても、その18歳未満の子供が18歳に到達した年度末、3月31日までとなりますので、おさえておくことが重要です。

遺族厚生年金の支給のポイント

厚生年金に会社員として加入しているのであれば、遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金を受け取ることができます。国民年金加入者に比べると、遺族厚生年金分が加算して受給できるので手厚い遺族年金といえます。ただし、遺族厚生年金を受給するためには、前提条件があり、一定の厚生年金保険料を納めている必要があります。一定の厚生年金保険料とは、国民年金加入期間の3分の2以上を保険料納付済期間(保険料の免除期間を含む)であることが条件となります。そのため、今まで国民年金を未加入の方が、結婚を機に会社員として勤めて厚生年金に加入しても3分の2以上の保険料納付済期間に達しない場合は、亡くなられたとしても配偶者へは遺族厚生年金は支給されないので気を付ける必要があります。

生計を維持されていた妻や子供に支給される


対象となるのは、亡くなられた方によって生計を維持されてきた人となります。生計を維持されていた人とは、同居していること、遺族の年収が850万未満を指します。ただし、同居していなくても、仕送りしている生計を支えている、健康保険の扶養家族である等の場合は認められます。例えば、遺族の方の年収が850万円以上であった場合は、遺族年金の受給対象とはなりません。

支給されるのは遺族基礎年金では、妻と18歳到達年度の年度末を経過していない子(ただし、子供に障がいがある場合は、障害年金の等級1、2級の20歳未満)となっていますが、遺族厚生年金の範囲は広くなっています。条件はありますが、妻や子供のほかに、父母や祖父母、孫も対象となりますので、より手厚い遺族年金といえるでしょう。

遺族基礎年金にプラスされて支給

遺族厚生年金は、遺族基礎年金に加えて厚生年金の加入期間や支払っていた額によってプラスされる制度です。支給の範囲が広いだけでなく、支給される額においても遺族厚生年金は手厚い内容になっているといえるでしょう。

夫の死亡時30歳未満の子の無い妻は5年間のみ支給

ただし、誰しもが同じ条件で受給できるわけではありません。夫が死亡時に30歳未満の子供がいない妻は、5年間の有期給付となりますので、気を付ける必要があります。

支給額は厚生年金の報酬比例分の3/4位

平成29年4月からの遺族厚生年金は、平均標準報酬月額に1000分の7.125に平成15年3月までの被保険者期間の月数と平均標準報酬月額に1000分の5.481に平成15年4月からの被保険者期間の月数に4分の3をかけた額となり、被保険者期間の給与の額によって変わってきます。この計算は複雑なので、ねんきん定期便に記載されている年金額の4分の3をかけるとおおよその額はつかめます。

遺族厚生年金の受給資格

遺族厚生年金を受給するためには、4つのいずれかに該当する必要があります。

1つ目は、厚生年金の被保険者期間中に亡くなった場合です。
2つ目は、会社を辞めるなどで厚生年金の被保険者資格が喪失した方で、被保険者期間中の傷病が原因で初診日から5年以内に亡くなった場合です。この場合は、被保険者でなくても受給できます。
3つ目は、1級あるいは2級の障害厚生年金の受給者が亡くなった場合です。障害厚生年金受給者とは、厚生年金の被保険者期間中に初診日のある傷病が原因で障害基礎年金の1級あるいは2級に該当する障害になってしまった方を言います。
4つ目は、老齢厚生年金の受給権者と受給資格期間を満たしている方が亡くなった場合です。

遺族年金はいつから受給できるのか

もし生計を維持されていた方が亡くなった場合、今後の生活に大きな不安が残り、遺族年金がいつから受給されるのかが気になるところです。大きな収入の柱を失うことで、日々の生活にも大きな影響を受けることもあるでしょう。場合によっては、貯金がない、一時的にも頼れる人がいないときは、ことさら影響を受けるでしょう。ここでは、いつから受給できるのかを詳しく紹介していきます。

年金加入者が無くなった日の翌月から支給開始

遺族年金の支給は、年金加入者が亡くなった翌月から行われます。ただし、死亡したことを届け出るだけでは支給されないので注意が必要です。まずは、死亡された方が国民年金ならば市町村役場、厚生年金ならば会社を通じて資格喪失の手続きを行ってもらう必要があります。また、年金受給者の場合は、年金事務所に届け出が必要です。その後、年金手帳や戸籍謄本、死亡者の住民票の除票など必要書類を準備して、市町村役場や年金事務所への届け出を行って手続きを行います。そのため、実際の現金として振り込まれるのは、必要書類を提出してから、おおよそ3~4か月先から支給されます。支給には時間がかかりますが、支払われる額は、支給開始月にさかのぼって支払われます。

年金支給月は基本偶数月になる

実際の年金がいつ支払われるのかは、偶数月に行われます。手続きを行って支給されるまでに、3~4か月かかるので、手続きの支払いが奇数月に該当した場合は、さらに1か月の時間がかかる場合があるので、亡くなられて大変な時期ですが、遺族は速やかに手続きを行うことで支給まで速やかに進んでいきます。また、偶数月に該当せず支給までに時間がかかってしまう場合は、調整により奇数月に支払いが行われる場合もあります。いつから支払われるかは、手続きを行った機関で確認をしておくのが良いでしょう。

支給に関して不明な点は年金事務所に問い合わせを

遺族年金の支給を受けるためには、亡くなられて大変な時期に、多くの必要書類を用意して遺族給付裁定請求書の提出を行わなければなりません。周りに遺族年金の支給の手続きを行ったことがある人がいなければなおさら大変です。支給手続きや自分自身が受給できるのかなど、分からないことや不安があった場合には最寄りの年金事務所に問い合わせてみましょう。担当の方が、丁寧に教えていただけます。

覚えておきたい遺族年金受給における注意点

遺族年金受給において、加算される面やあるいは受給資格が失権してしまうなど気を付けるべき点があります。まずは、知っておくとともにわからないことがあった場合は、年金事務所などに問い合わせて、手続き漏れをしないように気を付けなければなりません。

加算支給や独自給付として支給される分がある

遺族年金には、一定要件を満たすことで加算されたり、受給資格に満たない場合でも受け取れる場合があります。

まず中高齢寡婦加算は、40歳~65歳になるまでの間、夫が亡くなったときに40歳以上65歳未満で生計を同じくしている子がいない妻、あるいは遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給していた子のある妻が受給資格の失権などにより、遺族基礎年金の受給ができなくなったときに適用されます。加算される金額は、年額584,500円と大きな給付を受けることができます。

次に、寡婦年金は第1号被保険者(国民年金)の年金期間を持つ夫が死亡した場合に、要件を満たしていると、妻が60歳~65歳までの間に、夫が受給できたであろう老齢基礎年金の4分の3が支給されます。要件は、夫が保険料納付済期間と保険料免除期間を足して10年以上であり、老齢年金や障害年金等を受給したことがない場合です。その上で、婚姻期間が10年以上であり、夫によって生計を維持されていた妻に60歳~65歳になるまでの間支給されます。

他には、死亡一時金という制度があります。これは、第1号被保険者(国民年金)が36ヶ月以上の保険料納付済期間があり、その方によって生計を同じくしていた遺族が受け取れます。金額は、保険料の納めていた月数によって変わってきますが、120,000円~320,000円となっています。

いずれの場合も専門的な知識や確認が必要な場合がありますので、あきらめずに年金事務所や専門家に相談すると良いでしょう。

受給資格の失権により遺族年金がもらえなくなるケース

遺族年金は、いつまでも支給されるとは限りません。受給資格要件が失権することで、遺族年金のその受給権が消滅します。

一つ目は、受給者が死亡、婚姻、直系血族または直系血族または直系姻族以外の方の養子となったときです。

二つ目は、子供に対する遺族基礎年金は、一つ目の要件を含めて以下の要件に該当した場合です。
・離縁によって死亡したものの子でなくなったとき
・18歳に達した日以後の最初の年度末(3月31日)が終了したとき、
・障害の子供が1級または2級の障害の状態でなくなったとき
・障害の状態にある子供が20歳に達したとき

三つめは、妻のすべての子供が、一つ目の要件を含めて以下の要件に該当した場合です。
・妻と生計を同じくしなくなったとき
・妻以外のものの養子になったとき
・離縁によって死亡したものの子でなくなったとき
・18歳に達した日以後の最初の年度末(3月31日)が終了したとき、
・障害の子供が1級または2級の障害の状態でなくなったとき
・障害の状態にある子供が20歳に達したとき

また、受給しているのは他にも父母、祖父母、孫などがいますが、一つ目の失権の要件は共通となりますので、その際には失権の手続きを行う必要があります。

妻が亡くなった場合55歳未満の夫には受給権は無い

妻が亡くなった場合は、受給資格がないように思われる方が多いと思われます。しかし、遺族厚生年金は要件を満たせば夫が受給でき、平成26年4月以降に妻が亡くなった場合は、子供のいる夫も遺族基礎年金を受給できるように手厚い支援を受けられるようになりました。しかし、受給には夫側の要件があり、妻が死亡時に55歳以上であり、妻に生計を維持されていたなどがあります。そのため、夫が55歳未満であった場合は、受給資格はありません。

受給資格に不安がある場合は専門家に相談を


ここまで、遺族年金について説明してきましたが、聞きなれない用語が多く、自分自身が受給資格に該当しているのか分からない方も多いと思われます。わからない、不安がある場合は、年金事務所への相談のほか、専門家への相談もお勧めいたします。年金事務所への相談の場合は、自分自身で手続等が行えれば問題がありませんが、煩雑な手続き等が面倒であったり、時間が取れない方などは、専門家に相談してみるのも良いでしょう。社会保険労務士であれば、親身になって一人一人の状況にあった相談に乗ってくれるとともに、手続きを代行してもらうこともできますので、安心して任せられます。まずは、年金の手続きを専門に行っている社会保険労務士などに相談してみてはいかがでしょうか。

遺族年金のしくみを把握し将来の不安を軽くしよう

遺族年金について、知っていただくことができたでしょうか。普段耳にしない専門用語が多く、受給要件なども様々あって理解するのが難しかった点もあったかもしれません。しかし、今は、大過なく生活を営んでいますが、いつ何時、不幸が訪れるとも限りません。もしそのような事態が起きた時には、今後の生活において残された遺族は、どのように生計を立てていけばよいのか大きな不安を抱えます。遺族年金の仕組みを知っていることで、安心して今の生活を送れるようになるでしょう。そして、不安が大きい場合は、年金事務所や専門家に相談してみましょう。