老後の生活設計の糧ともいえるものといえば「年金制度」ですが、月々の保険料の支払い以上に気になるのが、実際に要件を満たしたことで受給される年金の金額でしょう。もちろん、それには規定に基づいた計算方法で求めることができます。今回は、その年金の計算方法と平均受給額を中心に年金の一つの実態を紹介します。

目次

国民年金と厚生年金の計算方法


国民年金と厚生年金の計算方法は、次の通りです。

国民年金は加入期間の長さで計算

国民年金は、給付のパターンによって次の名称で呼ばれることになります。

● 老齢基礎年金

● 障害基礎年金

● 遺族基礎年金

● 寡夫年金

● 死亡一時金

この中で、一般的に国民年金のイメージがもっとも強く定着しているのが、65歳から受給が開始となる老齢基礎年金でしょう。

この年金の基本的な仕組みは、次の通りです。

● 年金の金額
① 満額799,300円

● 受給要件
① 保険料納付済期間と保険料免除期間を合算して10年以上あること
② 20歳~60歳までの40年間の全保険期間において保険料を納付していること

● 受給開始年齢
① 65歳から支給される
② 60歳からでも繰り上げ受給、66歳~70歳までの間で、受給者が希望する年齢から繰り下げ需給ができる

しかし、もし保険料免除期間があった場合は、年金の金額は次の計算式に当てはめて求めることになります。

779,300円 × ((保険料納付月数 + (保険料全額免除月数 × 8分の4) + (保険料4分の1納付月数 × 8分の5) + (保険料半額納付月数 × 8分の6) + (保険料4分の3納付月数 × 8分の7)) / 加入可能年数 × 12か月

この計算式から、加入期間に応じて老齢基礎年金は変動することが分かります。日本年金機構が未納となっている人たちに対して、早く納付をしてもらうように呼び掛けているのは、単に未納があると保障が得られないことに加えて、このような事情によるものが挙げられます。

厚生年金は加入期間と平均給与額で計算

会社員や公務員など第2号被保険者が受給対象になる年金といえば厚生年金ですが、国民年金と比べるとその金額を求める計算式は次の通りとなっており、複雑な要素を持っていることが分かります。

平均給与 × 一定乗率 × 加入期間 = 厚生年金の金額

この中で、国民年金との決定的な違いは「平均給与」になります。これは、文字通り給与を平均した金額のことですが、次の理由もあって自力での計算では正確な数値を求めるのは困難で、年金事務所等で確認しなければなりません。

● 自分の今まで受給してきた給与を全て把握しなければならない

● 今までの給与を仮に把握していても、現在価値に置き換える作業がある

逆に、加入期間については「会社に在籍していた期間」となるので、そこまで困難ではないことが多いです。

厚生年金は平成15年4月前後で計算式が違う

また、平均給与をより複雑にしているものに、「総報酬制の導入」という概念を取り入れたことがあります。

具体的には次の通りです。

● 平成15年3月まで:賞与(標準賞与額)を反映させず月給(標準報酬月額)のみで平均給与を求める

● 平成15年4月以降:月給だけでなく賞与も反映させて平均給与を求める

例えば、月給60万円、賞与120万円(年2回)という場合は次の通りです。

● 平成15年3月まで:月給60万円 ×12か月 / 12か月 = 平均給与60万円

● 平成15年4月以降:月給60万円 × 12か月 + 賞与120万円 × 2回 = 960万円 / 12か月 = 平均給与80万円

ただし、平均給与が平成15年までおよび平成15年以後の計算式で変化はあるものの、それでもらえる年金の金額自体が多くなるわけではありません。

なぜなら、次の乗率が関わってくるためです。

● 平成15年3月まで:7.125 / 1000

● 平成15年4月以降:5.481 / 1000

ただし、暫定的に以下の乗率も適用されることがあります。

● 平成15年3月まで:7.5 / 1000

● 平成15年4月以降:5.769 / 1000

つまり、乗率を減少させたことで不公平な状況を生み出さないようにしていることが分かります。また、在職期間が平成15年3月以前からスタートしていた場合は、またいで計算することになり、計算自体の工数が非常にかかることになります。

なお、総報酬制の導入の背景についても簡潔に紹介します。

これは、平成12年の年金改正時に、厚生年金の保険料と支給金額のいずれもが月給だけでなく賞与も反映させる仕組みですが、導入背景としては、次のような状況を改善させるためというのがあります。

● 厚生年金保険の給付金額が、賞与までは反映していなかったため、年収が同一であっても賞与支給がない人の保険料が少なくなり、賞与支給がある人は保険料が多くなる状況があった

● 在職老齢年金が月給を基準に停止される金額が決定されるため、年収が同一であっても、賞与の支給金額の差で異なってくる状況があった

平成29年現在の年金受給額の平均


平成29年時点での平均の年金受給額については、厚生労働省が発表している「厚生年金保険・国民年金事業の概況」の平成27年度版が最新データとなっており、それによれば次の通りです。

国民年金が5.5万円で厚生年金が14.7万円

国民年金と厚生年金の平均受給額は次の通りとなります。なお、併せて受給者数についても参考までに掲載します。

● 国民年金
① 受給者数:約3,323万人
② 平均受給額:約5.5万円(55,244円) 、新規裁定は約5.1万円(51,891円)

● 厚生年金
① 受給者数:約3,370万人
② 平均受給額:約14.7万円(147,872円)

両者の推移を、平成23年度~平成26年度のデータも参考に比較してみます。

● 国民年金
・ 受給者数(老齢年金、通算老齢年金、障害年金、遺族年金の受給者を含む)
① 平成23年度:約2,912万人
② 平成24年度:約3,031万人
③ 平成25年度:約3,140万人
④ 平成26年度:約3,241万人
・ 平均受給額(老齢年金、障害年金、遺族年金の金額を含む)
① 約5.4万円(54,682円)、新規裁定は約5.0万円(50,013円)
② 約5.4万円(54,856円)、新規裁定は約5.1万円(51,088円)
③ 約5.4万円(54,622円)、新規裁定は約5.1万円(51,511円)
④ 約5.4万円(54,497円)、新規裁定は約5.1万円(51,063円)

● 厚生年金の受給者数と平均受給額
・ 受給者数(老齢年金、通算老齢年金、障害年金、遺族給付の受給者を含む)
① 平成23年度:3,048万人
② 平成24年度:3,154万人
③ 平成25年度:3,216万人
④ 平成26年度:3,293万人
・ 平均受給額
① 約15.2万円(152,396円)
② 約15.1万円(151,374円)
③ 約14.8万円(148,409円)
④ 約14.7万円(147,513円)

これらのデータから次の実態が分かります。

● 両者の受給者数は共に増加している

● 平均受給額は、国民年金が平成27年度で回復の兆しが見え始めたのに対して、厚生年金は減少しつつあって、不況の影響で失業者が増加していることが一つの遠因として考えられる

夫婦世帯の年金支給額平均は19.3万円

無職の高齢者で夫婦としての世帯を持っている場合、一般的には年金受給で生計を立てていることが多いですが、平成29年時点での夫婦の平均の年金受給額については、統計局が発表している「高齢夫婦無職世帯の家計収支」の平成28年度版が最新データとなります。

それによれば、次の通りです。

● 可処分所得金額:約21.2万円(212,835円)
※可処分所得とは、収入から社会保険料と税金を控除した金額

● 社会保障給付金額(年金受給額):約19.3万円(193,051円)

● その他:約1.9万円(19,784円)

しかし、このデータと共に掲載されている支出の方が約26.7万円(267,546円)となっているため、この金額では毎月約5.4万円(54,711円)と赤字となります。そのため、収支のバランスがとれていない実態が分かります。

「老後資金は20年以上で数千万円は必要になってくる」とよく叫ばれていますが、この数値からそれが理解できることでしょう。また、今後もこの状況は続く見通しにもなっています。よって、他の収入源を作る見当も今後は求められるといえます。

独身世帯の年金支給額平均は11.1万円

無職の高齢者で独身者としての世帯を持っている場合でも、一般的には年金受給で生計を立てていることが多いです。なお、平成29年時点での独身者の平均の年金受給額についても、前述でも登場したデータが基になります。

それによれば、次の通りです。

● 社会保障給付金額(年金受給額):約11.3万円(111,375円)

● その他:約0.8万円(8,718円)

しかし、このデータと共に掲載されている支出の方が約15.6万円(156,404円で非消費支出12,445円を含む)となっているため、この金額では毎月約3.6万円(36,311円)と赤字となります。そのため、収支のバランスがとれていない実態が分かります。

また、独身の立場である以上、生活自体も夫婦と異なって原則として自力で送らないといけません。年齢の面から、収入面のみならず介護が必要になってくることも含めてさまざまな周囲の支援が求められるといえます。

厚生年金は男女別で見ると平均に差がある

平成29年時点での男女別での平均の年金受給額については、前述でも登場した厚生労働省が発表している「厚生年金保険・国民年金事業の概況」の平成27年度版が最新データとなっており、それによれば次の通りです。

男性の平均は16.6万円

平成27年度の時点で、男性の厚生年金第一号被保険者の人数と平均受給額は次の通りとなります。

● 厚生年金第一号被保険者:約1,058万人(10,582,254人)

● 平均受給額:約16.6万円(166,120円)

平成26年度の時点と比べると、次の通りとなります。

● 厚生年金第一号被保険者の人数:約1,043万人(10,403,940人)⇒約15万人増(178,314人増)

● 平均受給金額:約16.5万円(165,450円)⇒約0.1万円増(670円増)

このように、両方とも前年度増となっています。前述の通り、厚生年金の受給金額は減少していますが、男女別でみるとわずかながらも増加していることが分かります。

女性の平均は10.2万円

平成27年度の時点で、女性の厚生年金第一号被保険者の人数と平均受給額は次の通りとなります。

● 厚生年金第一号被保険者:約510万人(5,101,858人)

● 平均受給額:約10.2万円(102,131円)

これらを平成26年度の時点と比べると、次の通りとなります。

● 厚生年金第一号被保険者の人数:約508万人(5,018,074人)⇒約2万人増(83,784人増)

● 平均受給金額:約10.2万円(102,252円)⇒121円減

男性と異なり、厚生年金第一号被保険者の人数は増加したものの、平均受給額は前年度と比べると減少しています。

女性の46%は5万円~10万円程度の支給

なお、女性の厚生年金の受給金額を5万円~10万円の範囲に限定して、受給者数がどのくらいいるのかを見ると次の通りです。

● 5万円~6万円の受給者数:約11.2万人(112,828人)

● 6万円~7万円の受給者数:約22.3万人(223,005人)

● 7万円~8万円の受給者数:約45.7万人(457,573人)

● 8万円~9万円の受給者数:約70.4万人(704,728人)

● 9万円~10万円の受給者数:約79,9万人(799,260人)

合計:約229万人(2,297,394人)

これは、女性の全受給者数の約45%(45.03%)に値します。

このことから、5万円~10万円と低い水準の金額を受給している女性が、全体の半数近くを占めており、その大部分が満足した生活を送ることが困難となっていないかと推測できる実態が分かります。

学生特例の年金を追納した時の年金金額


年金制度は、20歳以上になれば強制的に加入となり納付をしなければなりませんが、学生など社会人と比較すれば収入面が少ない立場の人たちについては、一定の要件を満たすことで在学中の保険料納付が免除となる「学生納付特例制度」がありますが、免除期間中の保険料に対しても次のような仕組みによって年金の金額に影響を与えることがあります。

学生特例で免除された分を追納した方が得

実は、免除された期間に関しては保険料をさかのぼって納付することができます。これを「追納」といいます。

免除された分は、年金額が減額されますがこの対応をすることで増額されます。そのため、日本年金機構では将来の年金額を少しでも多く受給できるように呼び掛けています。

追納すると年金受給額は1,625円/年増える

追納すると増える年金支給額は、1か月分あたり1,625円増えます。なお、平成29年度の保険料は16,900円です。

免除期間が2年の時は9年で元がとれる

では、仮に追納を開始したとして果たして元を取るまでにどの程度の期間が必要になるかを考えることは多いでしょう。

これは、一般的に約9年となります。

例えば、平成23年度と24年度において免除期間が2年間発生した場合で計算しましょう。前述の通り、1か月分の追納で1,625円増えますが2年間(24カ月)なら39,000円増えることになります。

これを追納する保険料は、次の年度の場合は次の通りです。

● 平成23年度:15,260円の保険料のため1年間(12か月)で183,120円

● 平成24年度:15,540円の保険料のため1年間(12か月)で186,480円

合算すると、369,600円となりますが、これを39,000円で除します。

369,600円 ÷ 39,000円 = 約9年

以上となります。

ただし、これはあくまで一つの事例です。年間の保険料が増加傾向にある昨今においては、今後10年以上かかる可能性もありますので注意しましょう。

追納期間は免除後10年以内

ところで、他にも気になることとしては追納できる期間が挙げられます。これは「10年以内」と定まっています。例えば、平成29年3月分から開始した場合は平成39年4月末までとなります。

追納期間が過ぎた場合は国民年金任意加入

万が一、追納期間を過ぎてしまった場合ですが、その場合は国民年金の任意加入制度を利用して対応する方法があります。

これは、国民年金の納付期間である20歳~60歳を過ぎてしまって、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていない場合や、40年間(480か月)の納付済期間が足りなくて満額支給ができない場合などに、任意加入をすることで要件を満たせる制度です。

ただし、さかのぼって加入ができないため注意が必要です。

なお、次の場合も任意加入ができます。

● 年金額の増額:65歳まで

● 受給資格期間を満たしていない場合:70歳まで

● 外国に居住する20歳以上65歳未満の日本人

追納する場合は入社後2年目以降が良い

他にも、追納するタイミングですが会社に入社して2年目以降が良いとよくいわれています。

これは、一般的に入社は4月に行うことが多いですが、その場合、おおむね5月~12月の給与に対して(金融業界など一部の業界の場合は4月から支給される)税金がかかってしまいます。しかし、2年目以降は1月~12月の給与に対して税金がかかります。

ここでポイントになるのは、税金を求める税率は、給与などの所得に応じて変動するということです。そのため、同じ税率でも年収の金額が高い状態での追納の方が、節税効果が高くなるということです。

ただし、3年目以降の場合は加算金がかかるので10年以内とはいえ、のんびり追納ではなくあくまで計画的にタイミングを見計らっていくことがよいでしょう。

年収が高い時に追納すると税金がお得に

年金の平均受給額と計算方法を中心とした紹介をしました。前述の通り、追納する場合は節税効果が高く見込める年収の高い時を狙うのがベストといえます。ただし、10年以内という規定がある以上は、まずはその範囲内で考える必要はあります。このように、仕組みを知りそれに対応した考え方と実践力を持つことで、年金の一つの実態が見えてきます。