資産設計の中核を担う存在といえば年金制度でしょう。ただし、その種類は、「国民年金、厚生年金、共済年金」に分けられているなど複雑な仕組みで構成されています。また、各世帯の事情に少しでも即したものとなるように、その内容については定期的な見直しや改定が行われています。しかし、その中で共済年金については「公務員向けの年金」というイメージが強く持たれているものの、制度の仕組みについてはあまり知らない人も多いかもしれません。今回はそんな共済年金について各項目に沿う形で紹介していきます。
目次
改正前の共済年金の基本
共済年金は、被用者年金制度の改定により平成27年10月1日以降は厚生年金に統一化されることになりました。その結果、今まで共済年金制度に加入していた公務員や私学教職員なども厚生年金に組み込まれることとなりました。
ただし、その改正前の仕組みの基本を確認する必要はあるでしょう。そのため、始めにそのことについて次の項目に沿って紹介します。
役割は厚生年金と同じ
共済年金は、他の年金同様に支給は階段構造です。
まず、第一階に国民年金(基礎年金ともいいます)が該当します。これは、日本国内に住所を有している20歳以上60歳未満の男女が強制的に加入する年金ですが、被保険者は次の種類に分けられています。
● 第一号被保険者
自営業者、無職、フリーターなど
● 第二号被保険者
公務員や厚生年金保険制度に加入している会社に在籍する会社員(国籍や性別、年金の受給の有無に関係なく被保険者となる)、一定の要件を満たしたパートやアルバイトなど
● 第三号被保険者
第二号被保険者の配偶者(主に主婦)など
次に、この国民年金の上乗せ給付の役割として第二階があり、ここに共済年金と厚生年金が該当します。なお、この階は、国民年金の第一号被保険者の立場では加入ができないため、実質的な第二階に該当する国民年金基金などに加入する選択肢があります。
ここまでは、共済年金も厚生年金も一緒です。
しかし、共済年金では、さらに第三階として、「職域加算部分」という領域があります。他にも、企業年金など第三階に該当する年金はあるものの、これは企業が独自に設けている年金のため全ての企業であるわけではない点に注意しましょう。
以上が、共済年金の支給構造です。
しかし、今回の改定によって、職域加算部分は廃止となり今後は厚生年金と同様の仕組みとなりました。今まで別の種類の年金であった厚生年金と共済年金が統一化なされたということです。なお、その詳しい背景については後述で紹介します。
退職したときの退職共済年金
平成28年9月30日までに加入者が退職した場合、「退職共済年金」が支給されます。
その仕組みは次の通りです。
● 受給資格
① 65歳以上であること
② 1年間の加入期間を有していること
③ 加入期間(加入期間に加え、国民年金、厚生年金等の他の公的年金の加入期間があれば含んだ期間となる)等が25年以上であること
● 退職共済年金の計算式
厚生年金相当部分 + 職域年金相当部分 + 経過的加算 + 加給年金額
なお、国民年金の老年基礎年金では、一定の要件を満たすことで、「繰下げ」という本来の支給開始年齢となる65歳よりも遅らせて支給がされる代わりに年金の月額が増額される仕組みがあり、1か月あたり0.7%の増額率が一生変わらないなどの利点があります。この仕組みが退職共済年金でも採用されています。ただし、65歳から受給開始までは支給がないこと、退職共済年金以外に他の公的年金の受給権がすでにある場合は、この仕組みを利用できないことなどには注意しましょう。
また、平成27年10月1日以降の退職共済年金は「老齢厚生年金」として支給されることになります。こちらも併せて確認しておきましょう。
死亡の際は遺族共済年金
平成28年9月30日までに加入者が死亡した場合、「遺族共済年金」が支給されます。
その仕組みは次の通りです。
● 受給資格
① 加入者が死亡したとき
② 加入者が、退職後、加入者であった期間中に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する前に死亡したとき
③ 障害等級の1級または2級に該当する障がいの状態にある障害共済年金の受給権者が死亡したとき
④ 退職共済年金の受給権者が死亡したとき
⑤ 加入者期間等が25年以上ある者が死亡したとき
● 遺族の順位
① 第一順位:配偶者およびその子
② 第二順位:父または母
③ 第三順位:孫
④ 第四順位:祖父または祖母
この順位に加えて加入者によって生計維持されていたことも要件に加わります。また、先順位の人のみに遺族共済年金は支給されます
● 遺族共済年金の計算式
厚生年金相当部分 + 職域年金相当部分 + 中高齢寡婦加算
なお、遺族共済年金の受給者が次の通りであれば支給が停止されますので注意しましょう。
● 夫、父母または祖父母である
60歳に達するまで支給停止となるが、障害等級が1級または2級に該当する障害状態の期間は停止されない
● 妻及び子である
子に対する支給は停止されて配偶者に支給される
● 夫及び子である場合
夫に対する支給は停止して子に支給されるが、平成26年4月1日以降は、夫に遺族基礎年金の受給権があれば、子に対する支給は停止して夫に支給される
また、平成27年10月1日以降の遺族共済年金は、「厚生年金」として支給されることになります。こちらも併せて確認しておきましょう。
病気やケガで障害共済年金
平成28年9月30日までに加入者が障害を抱えた場合、「障害共済年金」が支給されます。
その仕組みは次の通りです。
● 受給資格
加入期間中に初診日がある傷病により、障害認定日(その初診日から起算して1年6か月を経過した日)において、障害等級が1級、2級または3級の状態にあるとき
この障害認定日には、障害程度の要件に該当していなくても、その日から65歳に達する日の前日までの間に該当すれば、「事後重症」の制度の適用により支給されます。
また、障害等級に該当しない程度の障害の人が、その後、加入期間中に別の新たな傷病を負って、前後の傷病を併合して初めて障害等級が1級または2級に該当したときも障害共済年金が支給されます。さらに、障害共済年金の受給権者が更に障害を抱えた状態になったときは、原則として前後の障害を併合した障害共済年金が支給されます。
● 障害共済年金の計算式
厚生年金相当部分 + 職域年金相当部分 + 加給年金額
なお、障害共済年金に関しては他にも次のような規定がありますので注意しましょう。
● 障害の程度に応じて年金額が改定される
● 障害の状態に該当しなくなった場合は、その期間中は支給が停止される
● 加入期間中は、職域年金相当部分の支給が停止となるが、障害基礎年金は加入期間中でも全額支給される
また、平成27年10月1日以降の障害共済年金は、「老齢厚生年金」として支給されることになります。こちらも併せて確認しておきましょう。
特徴的な職域加算部分
共済年金の特徴を表すものといえば、前述でも挙げた職域加算部分です。これは、「公務員の共済年金が厚生年金以上の待遇がある」という最大の理由にもなるほど、優遇されていた上乗せ給付でした。これが、改定で平成27年10月1日以降は廃止されました。
ただし、次の場合は改定後も受給できるため今も健在であるといえます。
● 平成27年9月30日までに65歳以上で退職共済年金の受給資格を有していること
● 平成27年10月1日に65歳未満で退職共済年金の受給資格を有していること
● 平成27年9月30日までに国家公務員共済年金制度の加入期間を有しており、同日以後に受給資格を有していること
● 平成27年9月30日までに遺族共済年金、障害共済年金の受給資格を有していること
● 傷病の初診日が平成27年9月30日までにあって、同日以後にその傷病について障害認定の認定を受けていること
● 初診日に加入していた人が平成27年9月30日までに障害等級に該当しておらず、同日以後65歳に達する日の前日までに障害等級に該当してかつ請求をしていること
● 障害等級に該当していなかった傷病と平成と平成27年9月30日までに初診日のある別な傷病と併合して、障害等級1級または2級以上に該当してかつ請求をしていること
以上のような場合が挙げられます。もちろん、これらに当てはまらなくても受給ができる場合も考えられるので、担当者に対して確認しておくと良いでしょう。
共済年金のメリット
共済年金のメリットといえば、前述でも挙げた職域加算部分だけでなく、次のメリットがありました。
● 障害共済年金、遺族共済年金に関しては、加入期間中なら保険料納付要件を問わない(3分の2、過去1年分の未納なしでなくともよい、基礎年金部分が出ないといった要素も加わる)
● 原資が残存していれば脱退手当金をもらっても返還して年金として支給できる
● 障害、遺族共済年金には公務、非公務で乗率が異なるものの、公務の場合の乗率はかなり高いことで、最低保障額も高い
● 遺族共済年金の遺族の範囲が遺族厚生年金の遺族の範囲よりも広い
このように、他の年金以上に優遇されていたことが分かります。
年金手帳はない
通常、年金制度には手帳がありますが、共済年金は発行自体がされていません。そのため、20歳になる前に公務員となった場合(高校卒業後の18歳の時期に公務員となったなど)などは手帳持参をしていないということになります。
この理由も、「共済年金の加入によって基礎年金番号が割り当てられて、以降はこれによって年金の手続きが行えるため手帳が不要である」というのがあります。
また、厚生年金との統一化による流れがあっても、基礎年金番号一つで対応ができることでなくても問題はないということがあります。昨今の消えた年金問題の原因が、年金番号の管理が転職などで新しく付与されるなどがあって、管理が乱雑になりがちだったというのがありますが、やはりその問題も本番号で対応できるようになりました。
以上のことから、年金手帳は発行されていないのが現状です。
共済年金の廃止
改定によって、共済年金が廃止されて厚生年金に統一化された背景には、主に次のことが理由に挙げられます。
時代と共に変化する社会情勢
公的年金制度は、昭和30年代後半より、「国民皆年金」の方針のもとで、現在に繋がる仕組みが確立されてきましたが、少子高齢化、晩婚化、女性の社会進出、経済の悪化、グローバル化、正規雇用以上に非正規雇用の労働者が増大するなど、その根幹を担う部分に大きな変化が起きていました。
制度の安定性を高める一元化
社会情勢の変動に対応するため、政府が年金制度の公的年金制度の在り方について、年を追うごとに議論を増やしてきた結果、今回の改定が定まって平成27年10月1日より施行されました。
この改定によって、次のビジョンを実現するべく動き始めています。
● 制度自体の成熟化をさせること
● 少子・高齢化の一層の進展等に備えること
● 年金財政の範囲を拡大して制度の安定性を高めること
● 同一の公的年金給付という公平性を確保させること
● 公的年金全体に対する国民の信頼を高めること
給付内容は厚生年金にならう
今までの共済年金に加入していた公務員や私学教職員は、改定によって今後は厚生年金の仕組みに倣うことになりました。よって、今までの給付の二階部分についても厚生年金の内容に置き換わっています。
職域部分の廃止
また、前述の通り職域加算部分は廃止されまました。今回の改定のビジョンである公平性の確保を実現させるためには、共済年金の最大の優遇とも言える本部分を見直ししなければ、ビジョンから逆行しているものと判断されかねないという見方があったものと考えられることによるものと見られています。
また、日本年金機構の個人情報流出問題、消えた年金問題などで、年金制度に対する国民の不信は高まっている情勢であった以上、そのイメージをアップさせる課題の解決もあったとみられています。
厚生年金としての共済年金
厚生年金に統一化されることになった共済年金ですが、気になるのが改定後の共済年金の仕組みについてでしょう。それを次の項目に沿って紹介します。
4つの種別
まず実際に年金を受給する立場となる被保険者についてですが、今回の改定によって次の4つの種別に分けられています。
● 第1号厚生年金被保険者
会社員など
● 第2号厚生年金被保険者
国家公務員など
● 第3号厚生年金被保険者
地方公務員など
● 第4号厚生年金被保険者
私学教職員など
このように第2~4号厚生年金被保険者が、共済年金の被保険者が新たに割り振られる区別となります。
年金額の決定は加入期間で決定
統一後に年金を受給する際、その支給額は加入期間によって決定されることになります。
具体的には次の通りです。
● 老齢厚生年金の受給
遺族厚生年金の受給者が亡くなれば、それぞれの加入期間ごとに関連機関による支給額の決定と支払いが行われる
● 障害厚生年金の受給
障害手当金および被保険者で在職中に亡くなって遺族厚生年金が発生する場合は、傷病の初診日または死亡日に加入していた関連機関が、他の機関の加入期間を含めて支給額の決定と支払いが行われる
このため、加入期間中にしっかり月々の保険料を支払っておかなければ、支給額が下がってしまうことに注意しましょう。
一元化後も支払い窓口は変わらない
年金の支払窓口は、一元化されていても原則としては日本年金機構と共済組合、どちらの窓口でも対応してくれます。これには改定による混乱を避けるためだけでなく、ワンストップサービスとして利用をして欲しいという狙いもあります。
なお、これまで他の実施機関に係る加入期間や年金の受給をはっきりさせるために、「年金加入期間確認通知書」「年金証書」などの書類提出が求められていましたが、それも原則として不要になり、よりそれに拍車をかけるものといえます。
年金額の端数処理
年金額の端数処理が改定後は次のようになっています。
● 改定前
各支払月に1円未満の端数が生じたときは、「切り捨て」をしていた
● 改定後
切り捨てた金額の合計額は、「翌年2月に支払う年金額に合算」となった
改定前と比較してみると、切り捨てされていた金額が合算されて上で受給できるようになったため、大きなメリットを生み出しているといえます。
なお、統一前後の厚生年金の単位の基準も次のようになっています。
● 改定前
百円単位(50円未満切捨て、50円以上切上げ)
● 改定後
一円単位(50銭未満切捨て、50銭以上切上げ)
自分の加入している年金制度をしっかりと理解しよう
共済年金について、改定に至った経緯と改定前後の仕組みを中心に紹介しました。紐解いてみると、社会情勢の変動による公的年金制度の維持が危ぶまれている昨今の見方が強い中でも、老後の生活基盤の維持、障害や死亡などによる生活維持などができるように、模索と決断によってなされたものであることが分かります。よって、今後も生活基盤の大事な糧の一つという認識を忘れないことが求められます。