転職や定年など何らかの理由で退職する時は、退職金が支給されるのが一般的ですが、必ず退職金を支払う義務があるわけではありません。退職金には様々な種類がありますが、退職金の種類によって掛金の支払者や契約を結ぶ運営者に違いがあります。そこで今回は、退職金制度の中でも中小企業で多く利用されている、中小企業退職金共済制度を紹介します。

目次

退職金共済とは


大企業の場合は、企業独自で退職金制度を設けているところが多くなっていますが、中小企業の場合は、退職金制度を設けることは経営上負担になることが少なくありませんので、従業員のために中小企業退職金共済に加入しています。中小企業退職金共済とは、事業主が中小企業退職金共済と退職共済契約を結び、毎月の掛け金は、全額事業主が負担します。中小企業退職金共済は、従業員が何らかの理由で退職することになった場合に、従業員の請求によって中小企業退職金共済から直接本人に退職金が支払われるという制度で、退職金は会社を通さず本人が直接受け取ることができます。

中小企業退職金共済は、中小企業ならどんな企業でも加入できるわけではなく、各業種で加入要件が設けられています。

中小企業のための国の退職金制度

中小企業退職金共済は、多くのメリットがあります。その一つは、国の退職金制度であることで、新しく中小企業退職金共済に加入することに加えて、掛け金を増額する事業主に対して掛金の一部が国から助成される点です。新しく加入する場合は、掛け金月額の1/2(従業員一人につき上限5,000円)が加入後4ヵ月目から1年間助成され、18,000円以下の掛け金を増額する場合は、増額分の1/3を増額月から1年間助成されることになっています。

事業主にとっては税制面で優遇される他、従業員の福利厚生が充実するなどの魅力があります。

事業主が中退共と退職金共済契約を結ぶ

中小企業退職金共済は、事業主と機構・中小企業退職金共済本部とが契約を結ぶことになり、月々の掛け金は事業主が全額負担することになっていますので、従業員には負担がありません。加入することで以下のようなメリットがあります。

1.掛金は口座で管理しているので手間が掛からない
2.掛け金は非課税
3.掛け金は従業員ごとに選択可能
4.条件を満たしている従業員に対しては、納付月を通算できる
5.従業員の福利厚生に利用できるため福利厚生が充実する

事業主のメリットとして、掛け金は法人企業の場合は損金として処理でき、個人企業である場合は必要経費として全額非課税になりますので税制面で優遇されます。また、従業員にとってのメリットとしては、掛け金を自由に選択できますし増額も可能となっている他、要件を満たせば納付月を通算できますので退職金の増額には大変有効です。

退職金共済のもらえる条件と金額

中小企業退職金共済は、中小企業や個人事業の従業員を対象にして退職金を支給する社外積立て型の国の退職金制度です。この制度は、様々なメリットがある一方で詳細な支給条件があります。また、支給金額は、月々の掛け金によって変わってきますので、ここではもらえる要件と金額を説明していきます。

中小企業退職金共済法によって定められる

中小企業退職金共済は、一般の中小企業退職金以外に特定の業種に限り定めている退職金共済もあります。また、この制度は、独自で退職金制度を設けることが難しい中小企業を対象に、国の援助によって確立されたもので、中小企業で働く従業員の福祉を目的として設けられています。

中小企業退職金共済は、中小企業退職金共済法により定められており、掛け金は独立行政法人勤労者退職金共済機構が管理及び運用しています。掛け金は、従業員それぞれが16種類から選択ができるようになっており、退職金の支払いについては、一時払いと全額又は分割での支払いの選択が可能です。

国が管理しているという点では、確実性の面から安心度の高い退職金と言えます。

12か月以上勤務する必要


中小企業退職金共済の退職金は、原則として従業員は全員加入となっていますが、期間を定めての雇用、繁盛期のみの季節的な雇用、短期で退職することが明らかな雇用などは、加入させなくてもよいことになっています。退職金の支払いに関しては、一定の要件があります。また、勤続年数によって退職金の支給額が決められており、勤務期間が3年6ヶ月以下の場合は掛金総額に相当する額が支給され、3年6ヶ月を超えて勤務している場合は掛金総額を上回る退職金が受取れるようになっています。このことからも、長く勤務すればするほど支給額が増えやすくなる仕組みとなっていることが分かります。ただし、勤務期間が1年未満の場合は不支給となりますので、退職金を受取りたい場合は、12ヶ月以上勤務する必要があります。

企業がかけてくれる月々の掛金

中小企業退職金共済は、企業と機構との契約になり事業主が掛け金の全額を負担することになっています。その中の何割かを国が負担してくれますので事業主、従業員両方に大きなメリットがあります。企業が掛けてくれる掛け金には、5,000円~10,000円までは1,000円単位で、10,000円~30,000円までは、2,000円単位で掛け金が設定されており、16種類の掛け金の中から選択できます。また、短期労働者に限り、特例として2,000円、3,000円、4,000円から選択することもできるようになっており、掛け金は、過去に遡っての変更以外ならいつでも変更が可能です。

退職金の計算方法よるもの

中小企業退職金共済の退職金の額は、掛け金の最低額が2,000円から3,000円となりますが、掛け金の額はそれぞれの従業員が選択できますので、掛け金によって基本退職金が変動します。基本退職金は、掛け金の月額と納付月数によって定められており、法の改正によって変更になることもあります。その基本退職金に、付加退職金をプラスした額が支払われることになります。

退職金の通算制度

退職金制度を設けている企業に勤務していて、定年や転職などの理由から企業を退職した場合は企業独自の退職金が支払われます。しかし、中小企業退職金共済の場合は以前に勤務していた勤務期間を通算できる通算制度があり、その条件は掛け金納付期間が12ヶ月以上あり、退職後2年以内に退職金を請求せずに被共済者となり申し出があった者(退職理由に関わらない)に加え、12カ月未満でも退職理由が自己都合でない者が挙げられます。また、中小企業退職金制度に加入する際に、既に1年以上勤務している従業員については、加入前の勤務期間を加入期間に通算することが可能です。ただし、この場合は事業主の申し出があった場合に限り通算され、通算される期間は10年を限度としています。

退職金制度に加入している企業間での転職

退職金制度に加入している企業間での転職の場合はどうなるのでしょう。退職金はその企業限りであることが一般的ですが、中小企業退職金共済の場合は、以前の企業の掛け金実績をそのまま、転職先の事業所の契約に通算することが可能です。通算できる条件は、掛け金が12ヶ月以上納付されている、以前の企業を退職してから3年以内である、以前の企業で退職金を請求していないことが挙げられ、会社都合退職であった場合は、厚生労働大臣がその理由を証明することで加入月数が12カ月未満であっても通算できるようになっています。

同じ企業への復職

休職をしていた場合には、同じ企業に復職することも少なくありませんが、そういった場合でも申し出が可能となっています。その手続きとしては、「掛金納付月数通算申出書」に前の被共済者番号の退職金共済手帳と新規の被共済者番号の退職共済手帳を添付して、中小企業退職金共済本部に送付することになっています。

同じ企業での就業形態の変更

パートやアルバイトの短時間労働者となるなど、就業形態の変更があることも少なくありません。また、職種が変わることも想定されます。そういった場合でも、加入従業員の同意を得たうえ事業主が申し出ることで通算でき、それまでの加入期間に引継がれます。

退職金請求の手続き

中小企業退職金共済は、国の退職金制度であり法律で定められている制度ですので、加入や退職金の支払いなどには様々な要件があります。退職金の請求に関しても同様で、受給の手続きには一定の流れがありますので、その流れを紹介します。

手続きする際に必要な書類


退職が決まって、退職金を受給する際には一定の書類の提出が必要となります。事業主側では、機構の中小企業退職金共済本部に「退職届」を提出することに加えて、退職した従業員の掛け金振替の中止の手続きを行い、退職した従業員に請求書を含んだ退職金共済手帳の交付も必要となります。また、添付書類は退職金の額や請求者が誰かによって異なり、300万円未満では印鑑証明書又は住民票、300万円以上では印鑑証明書、請求者の住所が事業主と同じ時には印鑑証明書、請求者が外国籍の場合には印鑑証明書又は住民票の添付が必要となります。

従業員の手続きの流れ

退職金の請求を行う際の従業員側の手続きの流れは、以下のようになっています。

1.退職金共済手帳を受け取る
2.退職金(解約手当金)請求書への記入、押印
3.マイナンバーなどの添付書類の確認
4.退職金の受け取り

添付書類としては、印鑑証明書や住民票などが必要となり、マイナンバーの提示も必要ですので、事前にしっかりと確認しておきましょう。また、退職者の遺族が退職金を請求する場合は、戸籍謄本が必要となり、中小企業退職金共済以外からも退職手当を受けている場合など特別なケースでは、添付書類が別途必要となる場合がありますので、そのような時は担当者に相談してみるとよいでしょう。

退職金共済の知識をつけ会社を円満退社出来る

いかがでしたか?中小企業以下の企業に勤務する人にとっては、退職金共済は老後の生活の基盤を作るお金として有利に積み立てられる制度です。国の機関が運営していますので、事業主にとっても従業員にとってもメリットが大きい退職金制度と言えますので、退職金共済の知識を身に付け円満に退社できるようにしておきましょう。