少子高齢化、晩婚化、相続問題、待機児童問題、女性の社会進出など、現代社会を取り巻く家庭の環境は、多様な価値観やニーズもあってさまざまです。そういった社会情勢の中で生まれた「おひとりさま」という言葉とその普及については、なにかと注目を集めることが多いです。しかし、その実態を紐解いてみる機会もまたそう多くはないでしょう。今回は、そんなおひとりさまについて紹介します。
目次
おひとりさまとはどんな人か
おひとりさまとは次の通りの人を指します。
おひとりさまの定義
一言で言えば「独身の男女」を意味します。一般的には、1999年頃にジャーナリストの岩下久美子さんが提唱した言葉ですが、この当時は、女性が仮に独身の立場であっても自身のライフプランやキャリアプランを確立させて日々の出来事を謳歌する様子を表していました。
しかし、現在では「男性も含めたもの」として定着しています。また、飲食店などでは「一人で食事をするために訪れるお客様」という言葉で使用されていることがあるなど、その使用範囲は多岐に渡ります。
おひとりさまのレベル
ところで、このおひとりさまも次の通りレベル分けがされています。
● レベル1:ひとりファーストフードや喫茶店
喫茶店などで一人読書や勉強でもしながら過ごすというものです。もっともこれはおひとりさまでなくても、よく行われるものであるためレベルとしては1段階目と最も低くなります。
● レベル2:ひとりファミリーレストランや定食屋
ファミレスや定食屋で喫茶店と同様に過ごすというものです。多少、喧騒する雰囲気であるため周囲の目は気になるかもしれません。それでも、レベルとしては2段階目となります。
● レベル3:ひとり映画館、美術館、博物館
一人で美術や映画、展示物を堪能しながら過ごすというものです。これらは静かな環境であるためおひとりさま向きではありますが、ある程度の関心を持っていることや知識に精通していないと楽しめない可能性もあるので、レベルとしては3段階目となります。
● レベル4:ひとりラーメン屋、牛丼屋、回転寿司屋
ラーメン屋や牛丼屋、回転寿司など男性の利用者がどちらかといえば多いところで過ごすというものです。そのため、女性のおひとりさまには多少ハードルは高めに感じることでしょう。レベルもそれなりに高い4段階目となります。
● レベル5:ひとりカラオケ、ライブ、スポーツ観戦
カラオケ屋やライブ鑑賞とスポーツ大会の観戦などで過ごすというものです。特段、珍しくはなくなりつつあるものの、それでも一人で利用することに対して抵抗を感じる人もいる以上、レベルは5段階目になります。
● レベル6:ひとり焼肉、居酒屋
焼肉屋と居酒屋で過ごすというものです。こちらは集団で入店して盛り上がる方が一般的で、牛丼屋などよりは入りづらい雰囲気となっているため、レベルは6段階目とかなり高い方になります。
● レベル7:ひとり国内旅行
日本国内を一人で旅行して過ごすというものです。一人のため気楽に行ける分、誰かと楽しむということができないため、レベルは7段階目と相当に高い方になります。
● レベル8:ひとり海外旅行
海外を一人で旅行して過ごすというものです。内容は日本国内が外国に変わっただけですが、その国の法律や社会情勢などを事前に把握しておかないと何かしらの事件や事故に巻き込まれた場合の対応も大変になります。そのため、レベルは国内旅行よりもさらに高い8段階目となります。
● レベル9:ひとりレジャー施設(ゴルフ、ボウリング、スキーやスノーボードなど)
レジャー施設で過ごすというものです。一般的にはレジャー施設といえば、家族またはカップルで楽しむ場所という要素が強いため、ここで一人過ごすのはレベルが9段階目と上級者と呼ぶにふさわしいレベルに達します。
● レベル10:ひとり高級料理店や料亭
単価が何万もする高級料理店や料亭で過ごすというものです。単価の高さでそもそも利用客が富裕層などに限定される上、そこに一人で利用するのは相当な勇気が必要です。そのため、最高レベルと位置付けてもなんら問題はないでしょう。
このようにレベルが上がるごとに、一人で利用(特に女性の単独での利用)にはそれなりの勇気と覚悟が求められる内容になっていくことが分かります。
おひとりさまの休日の過ごし方
さて、おひとりさまの休日の過ごし方は次のようなものがあります。
● 週末の土日を優雅に過ごすために金曜日は必ず定時で会社を上がる
● ドライブが好きで早朝からマイカーを動かす
● 行きつけのお店でゆったりとしたひと時を堪能する
● ショッピングで買い物をする
● 運動をする
● パソコンを利用してネットサーフィンやSNSなどのコミュニティを楽しむ
● 密かにファンとなっているアーティストのライブ鑑賞をする
● 書道などの習い事をする
もちろん、上記以外にも多数あります。これらと前述のレべル分けも取り込んで、休日の限られた時間を楽しんで過ごしていることが伺えられます。
おひとりさまのメリット
おひとりさまが増加しているのは当然メリットがあるからですが、主に次のことが挙げられます。
自分のペースで行動できる
まずはなんといっても自分のペースを守れます。それは何事にも束縛されないために、ストレスを抱える心配が通常よりは少ないためでしょう。また、「個人主義」と呼ばれる個人の意義や価値観を強調して、個人の立場を尊重する考えなどが広がりつつある昨今においては、自分のペースで行動しているおひとりさまの存在は、集団行動に馴染めない人たちからは、非常に魅力的に映り一つのシンボルになることも珍しくはないでしょう。
人付き合いの煩わしさがない
おひとりさまは単独で行動するため、人付き合いも通常よりは少ないでしょう。それがより気楽に行動できる要因となっていると判断することができます。そのルーツを辿ると、もともとはある程度の人付き合いをしていたけど、人間関係のトラブルが頻繁にあって煩わしい気持ちができたために、ごく自然にそれが回避できるおひとりさまは大きなメリットとして捉えることができたということは十分に考えられます。
お金を比較的自由に使える
インドア、アウトドア、どちらに主軸を置いた過ごし方をするにしても、一定のお金の準備は欠かせません。しかし、おひとりさまの場合は、自分に発生する金額だけで済ますことができます。そのため、既婚者やパートナーがいる人たちと比べたら比較的自由なお金の使い方ができる上、折半や割り勘といった概念もなく、かかった費用をそのまま出費するだけの選択が取れるので気楽であるともいえます。
自由に恋愛ができる
おひとりさまの場合は、行動範囲を各々で考えて決めることができるため、恋愛すらもかなり自由にできます。そのため、お見合い婚、知人の紹介、SNSや出会い系サイトなどのインターネットでの出会い、周囲のお友達からの発展などさまざまなパターンの婚活に対応できます。もちろん、一定の節度を守ることは求められますが、これらの自由がきくことは魅力でしょう。
おひとりさまのデメリット
気楽にかつ自由に行動ができるとしてもてはやされているおひとりさまですが、それでも次のようなデメリットがあることは念頭に入れておかないといけないでしょう。
老後の事が気になる
一人で自由に行動できるといっても、それがいつまでも続けられるわけではありません。なぜなら、加齢を重ねることで次第に身体も衰えて行動範囲が制限されていくからです。やがては、「介護」も含めた老後の生活について考えなくてはならない時が来るでしょう。
そして、その介護といえば、介護保険制度の利用で介護施設や医療機関などの職員が提供するサービスを利用することが多いです。しかし、本制度のサービス利用のためには、一定の要件があることに注意しなければなりません。また、施設に入所する場合は年金だけでは月々の費用がねん出できない可能性もあります。
このため、まずは人生のパートナーやその子供といった家族が可能な限り介護の対応をすることがまず介護の第一歩となります。実際、家族だからこそ食事や排泄のお世話や交流なども安心して任せられるというセーフティの要素もあるでしょう。
しかし、おひとりさまの場合は、独身のままでいる以上、それを満足に得ることが難しい環境です。また、万が一倒れた時もすぐに誰かが駆けつけてくれるとは限らないため、安全面もおざなりになりがちです。
このように、いずれは自由かつ健康的な生活が送れなくなることも考慮して、おひとりさまの立場を続けていくべきかを考えることも大切であるといえます。
病気の時に頼れる人がいない
万が一、何かしらの病気になった際においても、おひとりさまは自分だけで対応をしなくてはなりません。そのため、病院へ行く、薬の処方箋を薬局に持参して薬をもらってくる、仮に市販の薬でも対応できる場合であってもどれが効果的か薬局の担当者に確認をするなどの行動を行うことになります。そういう時に、「もし誰かいてくれたら少しはよかったかも」と思ってしまうこともあるかもしれません。
精神的に不安がある
一人楽しく過ごしている中でも、ある日突然、「このまま一人勝手気ままに生きていける生活が続くわけがない」と考える可能性も否定できません。そうなると、心のバランスが乱れて精神的な不安定を自ら起こしてしまうことも考えられます。そのため、ある程度の交友関係は維持するなどの取り組みはとても大切です。
おひとりさまが増えた理由
メリットとデメリット、それぞれを兼ね備えたおひとりさまですが、それでも増加し続ける理由としては次のようなことが挙げられます。
おひとりさまサービスの充実
前述でも挙げたおひとりさまが堪能する趣味に対応したサービスやお店が登場しています。
例えば、カラオケの場合だと、「ワンカラ・ヒトカラの鉄人」のように一人カラオケ専門店として首都圏や京阪神圏といった大都市部はもちろんのこと、仙台市といった地方部などにも進出するチェーン店が出現しており、おひとりさまが少しでも入店しやすいように環境を整えています。
また、インターネットカフェも、自宅でもネットをすることが当たり前になっているのにもかかわらず、ドリンクバー、ビリヤードやダーツ、オンラインゲーム、動画視聴などの環境を盛り込んで、日々おひとりさまの入店を呼び込んでいます。
もちろん、これら以外にも多数のおひとりさま向けサービスが登場しており、そのマーケティングも巨大化しつつありますので、ときおりチェックしてみることをおすすめします。
一人でいる時間を楽しみたい人が増えた
競争社会と表現されやすい現代社会においては、前述の通り集団に馴染めない人たちも出現することが多くなっています。そのため、週末の休みも含めて一人で行動をして楽しみたいと考える人たちが増加しています。実際、過半数以上が「一人で行動することが好きだ」と答えているアンケート調査の実態も確認されています。
未婚率が増加している
おひとりさまは、既婚者も含まれている場合もありますが、原則としては未婚者で締められています。そのため、おひとりさまの増加は未婚率の増加に直結することが多いです。
実際、5年に1回行われる国勢調査において男女の生涯未婚率が次の通り報告されています。
● 1965年:男性1.50%、女性 2.53%
● 1970年:男性1.70%、女性3.34%
● 1975年:男性2.12%、女性4.32%
● 1980年:男性2.60%、女性4.45%
● 1985年:男性3.89%、女性4.32%
● 1990年:男性5.57%、女性4.33%
● 1995年:男性8.99%、女性5.10%
● 2000年:男性12.57%、女性5.82%
● 2005年:男性15.96%、女性7.25%
● 2010年:男性20.14%、女性10.61%
● 2015年:男性23.37%、女性14.06%
このように、生涯未婚率が男女ともに逓増しており、少子高齢化を裏付けるデータとしても見て取れるため、一つの社会問題になっていることが分かります。次回の国勢調査は、2020年に行われますがこの数値は今後も逓増していく見込です。
おひとりさまの楽しみ方
これまでの項目でおひとりさまの過ごし方や考え方などを紹介してきましたが、他にも楽しみ方としては次のようなものも挙げられます。
おひとりさま専用のツアーに参加
旅行会社が企画したツアーの中には、「申込をした参加者全員がおひとりさま」という専門ツアーも多数生まれています。
その内容を見るとおおむね次の通りです。
● 原則としておひとりさまであることがツアー参加条件である
● 参加者一人一人がおひとりさまであるものの全コースに添乗員は同行する
● 宿泊予定の部屋はおひとりさま一部屋であるが、男女別相部屋プランもある
● 国内および海外旅行それぞれの行き先が用意されている
旅行会社もまた、おひとりさまブームに便乗したツアーで収益を上げていくことが課題になっています。
一人旅で疲れを癒やす
前述のおひとりさま専用ツアーなどを利用するだけでなく、本当にあてもなく一人ドライブしながら旅をして心身を癒すというのも楽しい過ごし方でしょう。
ただし、旅行ツアーと異なり、万が一の保障がなされていない状態のため、念のために国内または海外旅行の傷害保険等に加入しておくことをおすすめします。多くの保険会社がその商品を取り扱っていますが、いずれも比較的安価で期間限定で加入できるものなので、出かける前に一度は調べてみましょう。
イベントやサークル活動に参加
イベントやサークル活動に参加することも有効な楽しみ方の一つです。
そのため、近くにあるフィットネスクラブに会員登録して利用を始めてみること、または学習センターなどで行われている各種交流会(料理教室やスポーツ大会など)を利用してみることをおすすめします。
好きな趣味に打ち込む
ここまでの内容で何度も挙げてきたものを「好きな趣味」として没頭することも楽しみ方といえます。
一般的に日本のライフサイクルには、仕事を定年で退職して残りの余暇を趣味などに没頭することがごく普通に行われています。また、趣味に没頭すると精神的な楽しみが増えるため、長寿の秘訣にもなり得ます。そのため、ストレス発散だけでなく健康維持のためにも好きな趣味を増やして日々の生活に取り込むことです。
おひとりさまで人生を好きなだけ楽しもう
おひとりさまについて、現状と増加しつつある理由などを交えながら紹介しました。未婚化や晩婚化の要因の一つと見られていることもあり、いつまでも容認できない部分もありつつも、一人で好きなことができる点はやはり魅力的ではあります。人生を真に楽しんでいくためにはそういう期間と経験も必要かもしれません。まずは、今回の記事を少しでも参考にしておひとりさまに関心を持ってみることから始めてみましょう。